「情緒的な効果」と「機能的な効果」
前回は色彩心理学の中で「色と性格」について紹介しました。
今回は色彩心理学の中でも「色がもつはたらき」について解説します。
そもそも色には、大きく分けて2つのはたらきがあります。
1つ目は、印象をもたらすはたらきである「情緒的な効果」です。
私たちは、こういったファッションとかインテリアなどで使われている色から、山や海といった自然の色まで、様々な印象や気持ちを受け取ります。
ちなみに右の写真は、私が広島の尾道で開催された灯り祭りというイベントに参加したときに撮った写真です。
こういったものからも私たちは様々な印象や気持ちを受け取ることができます。
たとえば
・青色を見ると人は冷静になりやすい
・赤色を見ると感情的になりやすい
など、そういった情緒的な効果をもつはたらきが色にはあります。
一方でもう1つ色がもつはたらきというのは何かというと、「機能的な効果」というものがあります。
これは対象を見つけやすくしたり、区別しやすくしたり、その状態や状況といった意味を伝えたりするというはたらきのことをいいます。
簡単に言うと「機能的な効果」というのは、色を使ってわかりやすくする効果のことをいいます。
たとえば、こういった標識とか改札口の案内などがそうです。
ほかにも重要な部分を赤色にすれば目立ちやすくなるとか、路線図の路線を色分けすると分かりやすくなるとかがそうですね。
果物でりんごとか赤い色のものは
・緑の葉っぱとかまだ熟していない
・緑の果実と違うことものである
などを気づかせる効果ももっています。
このりんごは赤い色をしているので、熟して甘いですよということを伝えているわけです。
そもそもわかりやすさを高める「機能的な効果」というものにはどういったものがあるのかとういと、主に
・誘目性
・視認性
・明視性
・可読性
・識別性
の5つがあります。
この中で、誘目性と視認性というのは「対象の発見」を表します。
たくさんの物とか人とかが集まっている中でも見つけやすくするためという要素を持っているものです。
前回は「情緒的な効果」について述べたので、今回は「機能的な効果」について解説します。
誘目性
誘目性は、「注意を向けていない対象の発見のされやすさ」のことをいいます。
ある環境の中で、ある対象がどれだけ人の目を引き付けるかという度合いのことをいいます。
なので、自分たちが意識を向けていないときに、どれだけ注目されるのかということが誘目性というものになります。
見る人の興味や関心に関係なく伝達しなければいけない情報というのは、色によってその誘目性を高める必要があります。
たとえば危険であることを伝えるとか、これは禁止しているものであるとか、そういったものを看板とかで表示する時がそうです。
ここでみなさんに問題です。ここにGOと書かれたマークが表示されたものがあります。
自分たちが意識を全く向けていない状況の中で、この表示に注目してほしいと思った場合、何色に変えるのが一番効果的でしょうか。
背景は白とします。ここで変えるものというのは、黒字で描かれたものです。
Q 黒色でかかれたものを何色に変えると最も注目されやすくなるでしょうか?
A 私は黄色だと思います。
A 赤色ですかね。
A うーん俺も赤色かなぁ。
正解は……赤色です!
実はですね、背景が変わることによって目立つ色の組み合わせは変わります。
それが次の図です。
これはですね、誘目性が高い順に並べたものです。
右に行く組み合わせであればあるほど目立ちやすいですね。
誘目性は、一般的には色が鮮やかなほうが高いです。
なので白の背景であれば赤色、黒の背景では黄色の組み合わせが注目をひきやすい色となります。
先ほどの表示はですね、背景が白色だったので、赤色を使ったほうがいいということになります。
逆に目立たせたくない場合は、左に行けば行くほど目立ちにくくなります。
なので夜街を歩くときに、色々あって目立ちたくない場合は紺色の服を着るといいということになります。
A なんかあれだな。悪いことした人みたいだな笑
もし夜車にひかれそうで怖いわっていうのであれば、黄色の服を着るといいということになります。
理由は背景が黒だと黄色の組み合わせが一番目立つからです。
なので軍隊の服装で迷彩柄が使われているのは、これは誘目性を低くするためですね。
敵に見つかると危ないから目立ちにくい色の組み合わせにしているということです。
動物の保護色もそうですね。
だから軍隊の服とか動物の皮膚の色が黄色とか赤色とかだったら大変なことになる。
すぐに敵に見つかってやられてしまうということになります。
このどれだけ注目を引き付けるかという誘目性について、先ほど紹介した例がこちらです。
この写真の「止まれ」という表示は、赤色を使っているので白と組み合わせています。
次の写真は、黄色と黒が最も目立ちやすい組み合わせなので、それらの色が使われていますね。
こういった感じで、色の組み合わせには意味があるということですね。
赤色や黄色は、注意を喚起する色として危険表示や禁止表示によく利用されています。
海外だと、黒に赤と黄色を合わせたのもあったりします。
ここまでが、どれだけ注意を引き付けるのかという誘目性についてでした。
視認性
次は視認性です。
さきほど紹介した誘目性は、意識していないものに対して意識を向けさせるものをいいました。
ですがこの視認性は「意識を向けて対象を探すときの発見のしやすさ」のことをいいます。
つまりもともと意識を向ける必要があるものに対して、発見しやすいものをいいます。
冒頭でも説明しましたが、たとえば多くの人が利用するこのような案内表示などには、高い視認性が求められます。
視認性は基本的に背景との違いを際立たせれば高まります。
特に背景の色と文字とかの色の明るさの差が大きくなればなるほど視認性は高くなります。
たとえば、黒の背景の場合、黒だと暗い色になるので、文字の色は黄色とか明るい色が見やすいということになります。
一方で背景が白とか明るいものだった場合は、文字の色が同じ明るい黄色だと見えにくくなります。
なので、駅の案内板とかは、暗い色である黒と、明るい色である黄色の組み合わせで表示されていることが多いです。
ここまでが対象の発見のしやすさである誘目性と視認性についてでした。
明視性・可読性
次は、色のはたらきがもつ機能的な効果の1つである明視性と可読性について紹介します。
明視性と可読性というのは、簡単に言うと意味の理解として使われるものになります。
誘目性と視認性が「対象の存在の発見」にかかわる言葉であるのに対して、明視性と可読性は「発見された対象の意味の理解のしやすさ」のことをいいます。
意味を伝える対象が図形であれば明視性、文字や数字であれば可読性といいます。
明視性、可読性は、特に色の明るさの組み合わせの違いによって理解のしやすさが大きく変化します。
ここでみなさんに問題です。非常口誘導灯の色というのは、緑と白の組み合わせになっています。
Q 緑と白だけの組み合わせは、誘目性が低い、つまり比較的発見されにくい組み合わせです。どうして非常口誘導灯の色というのは、緑色と白色の組み合わせでされているのでしょうか?
A プルキンエ現象を使ってるから
Q プルキンエ現象というのは、暗くなると緑色などの色のほうがよく見える現象のことをいいますね。それで緑色が使われているのではということですね。
A 落ち着かせるため。
A 安心させるため?
Q ヒントはこの表示が使われる状況はいったいどういう状況なのかということです。
A 火事ですかねぇ。
A 火事になったとき赤の反対の色が緑色だから、目立つからかなぁ。
あ、俺やっぱ安心させるために緑色にしたんだと思う。安心で!
正解は火事になって赤い炎で照らされたときに、赤の反対の色が緑色がよりはっきり目立つようになるからです!
A 反対の色が緑色で当たってたんかい!笑
火事が起きた場合は、炎で燃えているので建物全体が赤色に染まります。
もし単純にですね、この表に当てはめて考えたとします。
誘目性が高い組み合わせ、つまり赤と白の組み合わせが一番目立つからということで、赤色と白色の組み合わせにすればいいと考えがちです。
ですがそれだと、火事が起きた時に炎と同じ赤色で見えづらくなってしまいます。
なので非常口誘導灯の色は、赤ではなく、赤の反対の色である緑色が選ばれています。
この色遣いは、赤い炎で照らされたときに、図形がよりはっきり目立つようになる配色になっていますね。
このように、表示の誘目性や視認性、そして明視性と可読性を検討する際には、こういった環境の変化のことを考えながら、設置されています。
図がはっきりと見えて、文字を読みやすくするには、明るいところと暗いところの差を大きくすることが非常に効果的です。
なので読みやすい文字を作りたいのであれば
・背景を明るくしたら文字は暗い色
・逆に背景を暗い色にしたら文字は明るい色
にすれば読みやすくなります。
例えば、上の表示は背景も文字もどっちも暗い色なので非常に読みにくいですが、下の表示は背景を明るくすれば読みやすくなります。
これは文字が暗い色なので、背景を明るくすることで、明るいところと暗いところをはっきりさせたから読みやすくなったということです。
可読性、つまり意味の理解のしやすさを高めたいという場合は、色の明るさの組み合わせをどうするのか考えればいいということになります。
ここまでが明示性・可読性についてでした。
識別性
最後は識別性についてです。
識別性は「複数の対象の区別のしやすさ」のことをいいます。
対象によって色を変えることで、識別のしやすさを高めることができます。
特に形が同じであるとか、地下鉄の路線図のように情報量が多くて複雑な表示であれば、色分けすることによって識別しやすくなります。
ほかにも色の印象や知識を活用して区別するという方法もあります。
たとえば私たちは赤色は温かい、青色は冷たいというイメージをもっている傾向にあります。
なので、蛇口の色であれば温かい水は赤、冷たい水は青にして、違いをわかりやすく伝えるという方法も使われています。
あと幼稚園児の帽子の色を組ごとに分けるとかして、子供たちとか先生たちもどのクラスの子なのかわかるようにしている例もあります。
けっこう色の識別性をつかった区別というのは日常的にあります。
機会があれば、ぜひ色による識別の機能を利用してみてください。
まとめ
最後まとめに入ります。色のもつ働きには、情緒的な効果と、機能的な効果の2つに分けられるということをお話ししました。
機能的な効果というのは、色を使ってわかりやすくする効果のことをいいました。
色を使ってわかりやすくする効果には、誘目性、視認性、明視性、可読性、識別性の5つがあるということです。
このうち誘目性と視認性は、対象の発見のしやすさをあらわしています。
誘目性というのは、「注意を向けていない対象の発見のされやすさ」、人の目をどれだけ引き付けるかという度合いのことをいいました。
例えば止まれの表示とかがそうです。
一方で視認性というのは、「意識を向けて対象を探すときの発見のしやすさ」、つまりもともと意識を向ける必要があるものに対して、発見しやすいものを視認性というということでした。例として改札口の案内表示などをあげました。
次に明視性と可読性というのは、意味の理解のことをいいました。
誘目性と視認性が「対象の存在の発見」にかかわる言葉であるのに対して、明視性と可読性というのは「発見された対象の意味の理解のしやすさ」のことをいいます。
意味を伝えたいというものが非常口の誘導灯とかの図形であれば明視性、文字とか数字であれば可読性ということです。
最後に紹介したのが、たくさん同じものがある中で色によって区別する識別性というものです。
対象によって色を変えることで、識別のしやすさを高めることができます。
クラスによって幼稚園児の帽子の色を変えるなどがそうです。
私たちが何気なく日常を送っていく中で、色をつかったはたらきというものに実は助けられている面もあります。
それを意識して世界を見渡してみると、また違った風景が見えてきます。
もし、色を使う機会があれば、こういった色のもつはたらきを使ってわかりやすく表現してみるといいですね。
色に関する質問
Q 識別性について、会社で資料を作る時に色分けしたりします。その時、こういう色の組み合わせがいいというのはありますか?
A 色相環というのがあります。これを見ながら、赤色なら緑色、黄色なら紫色などできるだけ遠い色を使うといいですね。
例えば、赤色、オレンジ色、黄色の3色だとわかりにくいですが、赤色、青色、緑色なら見分けがつきやすいですね。
Q 10色の場合はどうすればいいでしょうか?
A 色を使いすぎるとかえってわかりづらくなります。できれば色は5つ以下ぐらいにおさえたいですね。10色であれば2つに分けて5つずつ表示するなどして色分けするのが望ましいですね。
A たくさんの色を使うとなると、センスが問われそうですね!
A そうですね。色んなことを総合的に考えながら使わないといけないので、センスが問われる作業だと思います。
Q 私の子供がアンパンマンが好きで、ついつい目で追っているのですが、これは色による効果も関係しているのでしょうか。
A 関係しています。
大半の子供は無意識に黄色を好む性質を持っているのですが、アンパンマンには黄色が使われているから反応しています。
ちなみに子供は黄色以外にも丸いものを好む傾向にあるので、多くのキャラクターは丸顔でできています。ドラえもんもそうですね。丸顔でキャラクターが作られている。アンパンマンなんてほとんど丸でできている。
A 色のデザインについて黒系でデザインされているものがあった。これは凄く大人な感じがしていいなぁと思った。
A 色のデザインでいうと「シック」といいますね。このシックのイメージには、「渋い」とか「洗練された」とか「大人っぽい」などのイメージを与えます。黒とか無彩色系の色を組み合わせた配色になることが多いですね。
2022/10/23
・色のはたらき「機能的な効果」
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