私は大学生時代は歴史を専攻していました。いまは労働を専門にした職業についています。
今回は、「1日中単純作業だと給料が倍でも続かない説」について、主にアメリカのフォード工場を例に解説します。
私たちは難しい仕事よりも、複雑な仕事のほうが長く続けられると考えがちです。
しかし実際は逆で、繰り返し行う作業ほど苦痛に感じる傾向にあるのではないか、というのが過去の歴史をみてみるとわかったりします。
それを顕著に示す例を紹介します。
T型車の大量生産で有名なフォードが行った工場の分業化です。
ここでは単純作業を理由に多くの労働者が退職をしました。
給料が倍でも人は単純作業に耐えられない
20世紀前半のアメリカで、分業化に特化した工場を作って、車の大量生産を可能にしたヘンリー・フォードという人がいます。
従来のアメリカでは、自動車はベテランの熟練工によって1から100まで丁寧に作られていました。
しかしそれだと車が1台できるまでに膨大な時間がかかってしまいます。
更に値段も3000ドル以上しました。これは当時のアメリカ人の平均年収のなんと4倍です!
いまの日本人の平均年収が400万円くらいなので、4倍ということは1,600万円くらいしたということです。
なので、車に乗れる人というのは、一般的には富裕層しか乗れないものでした。
そこでフォードは考えます。
どうすれば車を安くできるんだろう?
車を安くするには、大量生産すればいい。
では大量生産するためにはどうすればいいのか?
それでたどり着いた結論が、車の生産を分業化しようということです。
もともと1から100まであった熟練工の作業を100個の単純作業に分割したんです。
それを最後に1つに繋げて車を生産する工場を作りました。
徹底的に分業化することで、大量生産を図ります。
その結果、分業に特化したフォードの工場が誕生しました。
いまの日本もそうですね。大半の工場は分業化をはかっています。
1から100まで作っているのは、私が知る限りでは日本では岡野工業ぐらいですかね。痛くない注射針を作った工場で有名なところです。
今ではそういう会社は珍しいですけど、当時アメリカでは分業せず一から作るのが当たり前でした。
この時代を変えたのがアメリカのフォードの時代ということですね。
当時のアメリカの日給は2ドル程度でした。
ただ、フォードの工場では日給5ドルとかなり高い給料が支払われていました。2ドルの2.5倍なので倍以上ですね。
これは夫婦で働けば年収2,000ドルを超える金額です。
しかも仕事の内容は、分業化しているのでだれでもできる単純な作業です。 結果、全米からたくさんの人が就職希望者が集まりました。
作業工程は、たとえばタイヤのフレーム加工担当であれば、タイヤをはめるだけ。それを4秒に1回、1日で約7000回繰り返せば終了です。
作業内容はとてもシンプルで、給料も高い。これなら楽に続けられるのではと思うかもしれません。
しかし結果的にどうなったのかというと、多くの新入社員が、「フォードの職場は苛酷だ」ということで、工場を去っていきました。
倍以上の給料をもらっても、人は「単純作業」に耐えられなかったということです。
ここで出てくる説が、冒頭で紹介した「1日中単純作業だと給料が倍でも続かない説」です。 これについてもう少し掘り下げてみます。
現代も単純作業の多い業種の満足度は低い
厚生労働省の「労働経済の分析」のデータです。
そのなかには、日本の職業別「仕事の満足度」を5点満点でまとめたデータがあります。
専門用語で、ワークエンゲージメントといったりします。どれだけ自分の仕事に対して満足しているかという度合いのことをいいます。
これを見てみると、面白いことに、比較的単調な作業の多い業種ほど、満足度は低い傾向にあることがわかります。
一方で教育など複雑な業務の満足度は5点満点で平均「3.94」と一番高いです。「接客やサービス職」も「3.52」と高いですね。
学校や塾で生徒を相手にしたり、営業でお客さんと接して喜んでもらえたり、人間を相手にするような複雑な作業は意外にも満足度は高かったです。
ただ、「製造・生産工程職」など繰り返し作業の多い仕事の満足度「3.34」と低い傾向にあります。
製造業よりも低いものでいうと、「建設・採掘職」の「3.33」、事務職は「3.27」、そしてトラックの2024年問題などで話題になっている「輸送・機械運転職」は一番低い「3.24」ですね。
採掘するだけとか、パソコンで入力するだけとか、トラックで運ぶだけとか、そういう単純作業にはなかなかやりがいを見出しにくいというのがあるようです。
昔もいまも、人間は単純作業には面白さを感じにくいことです。
【対策】自分で変化を作る
ではどうすればいいのか。自分で変化を作るしかありません。
単純作業の多い仕事に勤めている場合は、単純作業以外の業務もあわせて行わないとモチベーションを高めるのは難しいと思います。
たとえば、顧客対応とか管理などがあります。
フォードの例が示すように、単純作業を繰り返す仕事であれば、どんなに高い給料でも人はやめていきます。
それは、人は少しでも「自分が成長している」感覚を持ちたい生き物だからだと思います。
私が高校1年生のときにした初めてのバイトは、パイナップル工場での仕事でした。
そこでは1日ずっとコンベアに流れてくるパイナップルの汚れを専用のパイプ状の吸い取り機械でひたすら吸っていくことを繰り返すのですが、これがなかなかつらかった。
おなじことをひたすらループしている。
1日ずっとパイナップル見ている。1日ずっとパイナップルを処理している。
1日ずっとパイナップルのにおいがする。いくら処理しても処理してもパイナップルが流れてくる。 これが永遠に続くんじゃないかと錯覚してしまうこともありました。
アニメで涼宮ハルヒの憂鬱というのがあります。
その中で永遠に同じ時の流れが繰り返されていく話が何十話にわたって放送された「エンドレスエイト」という伝説の回があったんですけど、その中で主人公が何度も同じ1日を過ごすというデジャヴに苦しむというシーンがありました。
いったい何回同じことを繰り返すんだっていう。永遠に終わらないじゃないかっていう。
ずっと同じことが繰り返される。デジャヴ。そんな毎日を過ごしているようで本当に辛かったですね。 やってることは凄い単純なんですけどね。1日8時間はきつかったですね。これが毎日ですからね。きついんですよね。
ちなみに今やっている仕事は異動で事務職がメインになったんですけど、やっぱ単純作業が多くて1日の流れが遅いですね。
そこで私の場合は、自分で変化をつくってモチベーションを高めていますね。
たとえば自分は学生時代美術部だったので、ポスターをつくったりポップを作ったりするのが得意です。
なので上司に伝えて「何かあれば作成します」と話して会社のチラシとか作ったりして飽きがないようにしています。
最近だと作業手順書をビジュアルでわかりやすく作ったりしましたね。
それで複雑な業務もあえて取り入れることで、自分のモチベーションを高めたりしています。
ちなみに仕事の満足度については、私の労働ブログの方でまとめたものがあるので、診断してみると面白いです。
業種ごとに平均が出ているので、自分が平均よりも上なのか下なのかで見ると参考になります。
まとめ:単純作業は続かない
まとめに入ります。
・人は単純作業だとモチベーションが下がって続かない
人間って同じことを繰り返す生き物なので、今回歴史も参考にしてみました。
そこで見えてきた事実は、給料がたとえ倍以上であっても、それが簡単な仕事であったとしても、人は続かずに辞めていくということですね。
仕事の満足度も下がってしまうということもわかりました。
もし異動とか転職とかで、単純作業メインの仕事になった場合は、複雑な業務もあわせてやったり、創造的な仕事をとりいれてみたりして、自分で変化を作っていくしかありません。
単純作業はできるだけ機械にまかせて、それ以外の複雑なこととか、自分の成長につながるような体験や経験は、人間がやっていくというのが、今後の理想の社会のあり方なのではないかなと思います。
質疑応答
Q AIにとって代わると仕事は奪われていくという話があります。
今回の話だと、単純作業がAIに変われば逆にいい時代になっていくと考えていいですかね。
A 基本的にはそうだと思います。
実は産業革命時代もいまと似たような現象が起きていました。
これまで人がやっていたことが機械にとってかわって、半分くらいの仕事がなくなったんです。
でも新しく半分の仕事が生まれたので、特に奪われるとかはなかったですね。
Q その時失業者は増えたんですか?彼らがどんな仕事についたとかもわかりますかね。
A どんな仕事についたのかまでは調べられていませんが、一時的には失業者は増えました。
ただ新しい仕事で募集がかかって失業した人も仕事を始めたので、最終的には失業者は減って前と同じような状況になっています。
Q 人は新しい環境に慣れていったという感じですかね。
A そうですね。今ではYouTubeは当たり前ですが、当時は個人がメディアで稼げるわけないとか言われていたので、最初は抵抗があったと思います。
Q 人は単純労働は続かない。パイナップルの話の例があった。
単純な仕事がAIにとってかわられる。一方で創造的な仕事もある。その日あるトラブルに対応する。毎日違う課題が起きるほうがいいというのもどうなのかな。
今の時代も単純労働している。同じものをたくさん作ることが必要だったりする。人間的じゃないからつらいというのはある。でもそれが向いている人もいる。精神的に不安定とか。どういう集中の仕方がいいのか。いろんな仕事をしていたほうがいいなと思うな。
A もちろんあくまで今回紹介したのは一般論なので、そこから外れる人もいるでしょうね。
人と関わるのが苦手な人とかは、単純作業の多い業種でも仕事の満足度は高かったと思います。
そこは人によるので柔軟に個々で対応できたらいいなと思います。
【参考文献・データ等】
・厚生労働省「労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」
・三谷 宏治『経営戦略全史』【動画付き】 (Discover Next D)
・涼宮ハルヒの憂鬱「エンドレスエイト」
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