原子力発電のしくみ
前回の続きです。ここでは主に原子力発電所の安全対策について話していきます。
簡単に復習すると、原子力発電というのは、大きな窯のなかに水がありまして、その釜の中で核分裂反応を起こして、蒸気をつくります。
その蒸気でタービンを回して電気を起こすものです。
核分裂のメリット・デメリット
原子は最小単位と言われていますが、まだ細かく分かれます。原子の中には、原子核という小さな粒の塊が存在します。
原子核を分かり易くする為に、イメージとしてビー玉の塊のような物だと思ってください。たくさんのビー玉をのりで軽くひっつけた塊の様なものです。
核分裂反応というのは、このビー玉の塊に対してアクションを起こします。どういうアクションかというと、このビー玉の塊にビー玉を勢い良く投げつけてぶつけてあげます。
するとどうなるのか。のりで軽くひっついているだけなので弱い。ぶつけた衝撃で大きなビー玉の塊が2つの塊に割れます。
ビー玉の大きな塊が2つの塊に割れると同時に何個かのビー玉が飛び出します。加えて大きな熱も発生します。これが核分裂というものです。
この核分裂という現象は、全ての物質で起こる訳ではなく、自然界ではウランという物質だけが起こします。
この核分裂のキーとなるのが発生する大きな熱です。
どれだけ大きな熱なのかというと、ウラン1gで石油およそ2トン分の熱を発生させます。つまり、原子力発電は少ない原料で多くの電気が作れるという訳です。これが原子力発電の最大の魅力です。
更に原料のウランも安定して入手可能という点もメリットです。
ただ、核分裂にはデメリットも存在します。それが人体に有害な放射能が発生する事です。
先ほどお話した割れたビー玉の塊がやっかいで、こいつが放射能を出します。この割れたビー玉の塊を外に出すのは厳禁です。
だから出さない工夫をしないといけない。その為に色々な対策がとられています。
安全対策その①「5重の壁」
安全対策その①は「5重の壁」です。
割れたビー玉の塊を外に出さない為に、原子力発電では5重の壁を作っています。まず第一の壁ですが、これは原料となるウラン。
このウランは、通常は粉の状態です。ビー玉で例えると、沢山のビー玉をのりで弱く引っ付いている状態です。この状態では、塊が割れた時、破片があっちこっち飛んでしまいます。
じゃあどうするのか。粉末状のウランを焼き固めて、固くします。ビー玉で例えると、バーナーでガラスを溶かしてビー玉同士を強くくっつけるイメージです。
こうすれば、塊が割れた時でも細かいガラスの破片が飛び散る程度になります。これが第一の壁。
しかし、第一の壁があってもガラスの破片はパラパラと飛び散るのでまだ危険です。
そこで今度はこの固くくっつけたビー玉の塊を金属の筒の中にガチガチに詰め込みます。これで破片が外に出ることはないので安全になります。この金属の筒が第二の壁です。
ちなみに第1と第2の壁で出来たものを燃料棒といいます。これである程度安全になりました。
それでも、危険物が詰まっているものを外で使うのは怖いので、その燃料棒は、密閉された金属の容器中で使います。この金属の容器が第三の壁になります。
でも第三の壁が壊れるリスクもあります。だから第三の壁の周りを分厚い金属で覆います。これが第四の壁です。
そして更に万が一のために第四の壁の周りを分厚いコンクリートで覆っています。これが第五の壁です。
この様に放射能を出す物体を絶対に外に出さない対策がとられています。これが安全対策の第1です。
安全対策その②「冷却」
安全対策その②は「冷却」です。
割れたビー玉の塊は、放射能出すと同時に熱を出しています。核分裂で発生する熱よりは、小さいものの、自分達からしたらかなりの高温です。
つまり第一と第二の壁で出来た燃料棒は、核分裂が起きた事により、滅茶滅茶熱くなっています。
だから第三の壁の容器内にある燃料棒は、水の中につけて冷却しないといけません。そうでないと第二の壁の金属が高温により溶けてしまいます。
第三の壁の容器内に冷却水を送り込む働きをするのが、冷却水ポンプです。このポンプがあることによって燃料棒があつくなりすぎないようにしています。発電が終わっても、この冷却水ポンプは継続的に動かして冷却水を送る必要があります。
この冷却水ポンプは、外部電源からの電気で通常動いています。
しかし、停電しても大丈夫なように非常用の供給電源も用意している。これが安全対策の第2です。
安全対策その③「核分裂抑制」
最後、安全対策その③は「核分裂抑制」です。
核分裂反応では、2つの塊の他に何個かのビー玉も飛び出すと言いました。このビー玉は、別の大きなビー玉の塊にぶつかって、また核分裂を起こします。
この状態を放っておくと、次々に核分裂反応が起きて、めちゃくちゃ熱が出て大変なことになります。だから、熱が出すぎているときはこのビー玉を回収してあげる必要があります。
このビー玉を回収する役割をするのが制御棒とよばれるものです。
発電を行う時は、核分裂を起こすビー玉が無いといけないので、釜から制御棒は引き抜いています。すると、核分裂が次々発生して、非常に釜の中が熱くなってきます。
熱くなりすぎると危険なので、ここで制御棒を釜の中に入れて、核分裂を発生させるビー玉を回収します。すると、核分裂は抑制されていきます。
しかし、抑制させ過ぎると、発電が止まってしまうので、ある程度抑制させたら、また制御棒を引き抜きます。
原子力発電では、この一連の流れを全て自動で機械が行ってくれます。それは人によって制御棒を入れる基準が違うと危険だからです。
制御棒を入れる基準は国によって厳しく定められています。これが安全対策の第3です。
まとめ
原子力発電は、メリットも大きいがデメリットも大きい。だから念には念を入れた対策がとられている。しかし、ここで一つ疑問が出てくるはずです。
これだけの対策をとりながら、何故福島第一原発やチェルノブイリ原発事故が起きたのか?
実は、これらの事故は、設備よりも扱う人による人災の面が大きいというのが問題でした。
原子力発電の安全対策から学べる教訓
念には念を入れるというのはマイナス思考の利用。
今世の中プラス思考・ポジティブ思考がいいとされているが、マイナス思考も大事。
原子力発電にプラス思考やポジティブ思考で臨んだら、万が一のときは怖い。
安全対策ではマイナス思考も取り入れることが大事。
質疑応答・感想など
Q どの原子力発電のしくみも同じような仕組みでできていると考えていいのか。それともほかにも安全対策があるのか。
A 基本的には仕組みは同じです。しかしこれだけの対策を取りながら福島第一原発の事故が起きたので、新しい対策が研究されています。これから更に進化させようとしている。
Q 福島第一原発について知りたい。
A 福島原発事故はこれだけの安全対策をとったのだから安全だろうという慢心が原因です。
地震が起きたとき、福島第一原発は、冷却水を送るポンプに供給するための電源が、非常用含めて全て壊れました。この原因は、慢心であると僕は思っています。
A 福島の「フクシマフィフティ」という映画がありますが、これをもう1度みたら見方が変わるのかなと思いました。
A 制御棒とか、なんていうのかな、よくニュースに出ていたのがこういう意味だったなんだということがよくわかりました。
冷却の供給が途中で止まっていたのがそういえばあったなって思って。被害のことがいろいろ出ていることがあって、少しずつ原因ってなんだということがわかって、確かにいわれてみればよく勉強になったなと思いました。
Q なぜこの発表をしようと思ったんですか。
A 資格の関係でこの分野も出るからです。
A 原発には何重もの安全装置があるのがよくわかりました。
次回予告のフクシマ原発事故が人災の面があるってのは知りたかったことなので楽しみです。
用語解説
・原子力発電
核分裂で熱を発生させ、その熱で蒸気を作り、その蒸気で電気を発生させる発電方法
・原子核
原子の中にある、小さな粒の塊。イメージとしてビー玉同士をのりでくっ付けた塊の様な物
・核分裂
ビー玉の塊である原子核に、ビー玉をぶつけるとビー玉の塊が2つに割れて、何個かのビー玉が飛び出し、さらに大きな熱が発生する現象
・制御棒
核分裂を起こすビー玉を回収する為のもの
2022/04/17
・原子力発電所と安全対策
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